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血が全て抜けていくような感覚に襲われた後、流れ込んできたのは激しい怒りの感情だった。
「なんだよ…なんでだよ!」
体の温度が急激に上昇したかと錯覚するほど、熱い。
「おめーにとって…ここは…オレは、簡単に捨てられるようなもんなのかよ!」
情けない台詞であることは分かっていた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。自分の感情が抑えきれない。
激昂するゼフェルに対して、ロザリアは悲しそうな表情を浮かべているだけだ。
それが余計にゼフェルの癪に触る。
「オレは、オレは本気でおめーのことが…いいか、よく聞けよ!オレはおめーが好きなんだよ!」
今まで言えなかった台詞。いつか言おうと思っていた台詞。
…まさかこんな形で口にするとは思わなかった台詞。
「わたくしも…ご存じでしたでしょうけど、ゼフェル様が好きですわ」
『好き』
ずっと聞きたかった言葉だった。
でも、嬉しくも何ともない。 ただ、混乱と悲しさが増すだけだ。
力が抜ける。
「じゃあ、どうして…」
オレを置いていくのか。
「わたくしは、女王になるためにここへ参りました」
そんなことはわかってんだよ!
思わず怒鳴りそうになるのをこらえて続きを待った。
「…女王とは宇宙を救うことができる、唯一の存在。だからこそ、わたくしは決心できたのです。わたくしが生まれた世界から、永遠に離れることを。わたくしを育ててくれた人々と別れることを」
ゼフェルは、弾かれたように顔を上げた。
「女王にはなれないと確信した時から、わたくしは決めておりました。プライドの問題ではございません。わたくしは、生まれ育った家族の元に帰りたいのです。ゼフェル様、わたくしはあなたが好きです。離れたくはありません。けれど…」
両親や祖父母、友人達。
生まれてから十七年もの間、ロザリアを育ててくれた世界。
そんなに簡単に捨てられる場所じゃないのは、
どっちだ?
…考えるまでもねーじゃねーか。
精一杯の力を振り絞って、言う。
「もういい。わかった」
ロザリアの顔に、不安の色が差した。
「違うのです!決して、決してゼフェル様を軽んじているわけではございません!」
「いや、わかったんだよ。本当に。だから…もういい」
自分だって、親や友達と離れたくなかった。無理に聖地に連れて来られた時は、心が壊れそうな程辛かった。
それを彼女にも味わえと言っていた。
彼女にとって全てがある世界を、自分一人のためだけに捨てろと。
恋か家族か。
陳腐なドラマにありがちな選択。
ドラマなら、きっとヒロインは恋を選ぶだろう。
だが、これはドラマではなく、現実だ。
女王になると恋をしてはいけないらしい。
では、恋と家族とではどちらが大切だろう?
女王の地位と家族とでは?
「ゼフェル様。聞いて下さいませ」
聞くのが辛かった。
言わせるのも辛かった。
「もう、いいんだ」
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