「ほらよ」
ゼフェルは、乱暴にバスタオルをロザリアに渡した。
なるべくロザリアを見ないように。
ゼフェルの私邸についた頃には、すっかり2人ともずぶ濡れだった。
ロザリアは、濡れた体で邸内にはいることを躊躇ったが、ゼフェルはそのまま部屋の中に連れて行った。
床なんて濡れればふけばいいだけ。
そんな事にこだわるゼフェルではない。
部屋の中は、いかにも鋼の守護聖の私邸らしく、完璧な空調システムが整えられてある。
温かい熱風がヒーターから流れる。
ここで、ようやく一息ついてゼフェルはロザリアの方に目を向けた・・・のだが、すぐにその視線をそらした。
・・・・透けている。
今日ロザリアが着ていたのは白いワンピースである。
上に羽織っていたカーディガンを脱いだせいで、その細い二の腕が露になっているのも気になるところだが、雨のせいで濡れた衣服がピッタリと体にはりつきそのラインが透け透け・・・なのである。
生唾をごっくんと飲んでしまうゼフェル。
しかし、すぐにバタバタとタオルを取りに行く。
自分の衣服が濡れていて気持ち悪いのも、通路が雫だらけなのもこの際どうでもいい。
「なんで、使用人が誰もいねぇんだよ」
悪いことは重なるもので、今日はいつも常務している執事さえ、休暇でいないのだ。
メカのロボットもメンテナンス中。
女の子を家に招待することじたい初めてなうえ、緊急事態でもある。
・・・風呂にいれてやったらいいのか?でも着替えもねぇし。
あのままでは風邪をひくことは必至である。
こんな時はどうしたらいいんだ?と参考になりそうな女性の扱いに長けていそうな守護聖の事を考えてみる。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
しかし浮かんでくる事ははろくな事ではなく、あわてて首をふる。
ロザリアと一緒にいたのが俺でよかったぜ、と安堵するゼフェル。
他の奴がみたらきっと・・・と先ほどちらりと見てしまったロザリアの服越しの裸体を思い出す。
「ヤベッ」
何がどうやばいのか不明だが、どうやら自分も安堵の対象ではないらしい。
とにかく今はバスタオルを渡す事、それだけに集中することにした。
そして、ゼフェルはロザリアにバスタオルを渡す。
ロザリアは、胸のあたりで交差していた腕をのばしてうけとる。
腕からまたポタポタと雫が落ちる。
「ゼフェル様、私は大丈夫ですので、どうぞお着替えください。そのままでは風邪を召されますわ」
ロザリアは心配げに言った。
もともと世話焼き体質なので、気になるのだ。
「お前こそ、・・・・俺の服しかねぇけど、濡れたままよりましだろ。しかたねぇから、何か貸してやってもいいぜ」
なるべく、なにげなくそう言う。
「いいえ、大丈夫ですわ」
やっぱりお嬢様気質のぬけないロザリアは、男の人の服を着る、という行為はいただけないらしい。
でも、ロザリアが大丈夫でも、ゼフェルは大丈夫でないのである。
誰もいない邸内。
なんともいえない姿のロザリア。
外は雨で、帰るに帰れない・・・・というかあんなロザリアを帰せない。
思考をフル回転させて、なんとなく分数の割り算とか余計な事を考えたりしながら、立ちすくむゼフェル。
雨のどしゃぶりの音が大音響でなりひびく。
そして、空に稲妻が走る。
邸内が明るくなる。
次の瞬間、どーん、と衝撃が走った。
雷がおちた、わけではない。
ロザリアが、ゼフェルに後ろから抱きついたのである。
柔らかな膨らみを背中に感じるゼフェル。
なんとも暖かなぬくもり。
全身の血が一箇所に集中して、ドッドドと音をたてる。
動揺もここに極めリ、だ。
「離せよっ」
なんとか残させた理性でロザリアをふりきろうと、体を反らす。
そのまま、くるりとロザリアの方を向くゼフェル。
しかし、それがまずかった。
正面から向き合ったロザリアは、またあの瞳でゼフェルを見ている。
「あの・・・・私、ゼフェル様の事・・・・」
ロザリアが小さな声で言う。
しかし、続きがでてこない。
言葉にできない何かを伝えようとしているような熱い眼差しがゼフェルを見つめる。
熱視線。
誘惑するかのような熱視線。
もう、小数点の掛け算を解く心の余裕は消えていた。
ドンッ。
先ほどの稲妻から遅れて、雷の落ちる音がした。
時間がかかっているから、ここからは遠いところなのだろう。
そして、同時刻。
ゼフェルは床にロザリアを押し倒していた。
硬い床に倒されて、さらに上から抑えこまれてはロザリアはたまらないだろう。
しかし、脳天がえも知れぬ熱さに溶けそうになっているゼフェルには、そこまでの気は回らなかった。
雨の匂いとロザリアの匂い。
冷たかった雨の雫が、体温で生ぬるくなっている。
衝動的に、ギュッと抱きしめる。
ロザリアが、はたっと気付いたかのように、手足をばたつかせる。
それでも、ゼフェルからすれば、簡単に押さえ込める強さである。
女なんだなぁ、コイツ。
そんな感慨さえ生まれてくる。
唇を、髪に頬に首に這わせるゼフェル。
「ゼ、ゼフェル様!?お離しください」
ロザリアのひっしに叫ぶ声さえも、耳に届かない。
べったりとした衣服が重なる感触。
ゼフェルはロザリアの背中に回した手で、器用にもワンピースの上からそのブラのフォクをパチンとはずす。
ビクッとロザリアの体が震える。
愛しい、そんな言葉がかけめぐる。
自分のそれとは全く違う、ロザリアの体。
眩いといっては大げさかもしれないが、そんな汚い手で触れてはいけないような気分になる。
でも、同時に何もかもが欲しくなる。
もっともっと、俺だけの彼女がみたくなる。
ゼフェルは熱に浮かされたように、普段なら絶対に口にしないような事をその耳もとで囁いた。
「お前って綺麗ぇだな・・・」
ロザリアの顔に手をかけ、その瞳をじっとみつめる。
そして・・・・・。
そして、ロザリアは顔を横にそらせ、そのゼフェルの薬指を口に含んだ。
熱い口内と唇の感触が指ごしに伝わる。
「痛って〜〜!」
次の瞬間、ゼフェルの叫び声が大きく館内に響いた・・・・・。(合掌)
「・・・・・」
「・・・・・」
それは、重い沈黙だった。
部屋の中央でその手をみるゼフェル。
薬指からは、血がでていた。
ロザリアに、思いっきり噛まれたのだった。
そのロザリアは、部屋の端の方にいた。
ゼフェルの普段着を借りているので、めずらしいジーンズ姿である。
ピ・ピ・ピ
乾燥機が完了の音を知らせる。
立ち上がるロザリア。
何も言わずに、部屋を出て行く。
ゼフェルは大きく溜息をついた。
さっきまでの自分の行動を思い出すと、後悔の嵐である。
さっきの俺は俺じゃなかった。
なんて言い訳がましく考えるが、やっぱり自分なわけで。
どう考えても、最低である。
指を噛み切られるほど、嫌がられてたという事実も、またショックといえばショックである。
「嫌われちまったかな・・・・。ま、別にいいけどよっ」
言葉ではそういうものの、やはり気が重い。
やりにくい雰囲気であるのは確かだった。
「雨もおさまってきましたし、帰りますわ。お洋服、洗濯してお返しいたしますので」
そう言って、ワンピース姿のロザリアが顔をだした。
「・・・洗濯なんて気ぃつかわなくてもいいぜ」
もっと別の言葉が必要と思うが、でてこないゼフェルは憮然とそう言う。
ロザリアが、じっとゼフェルの指をみる。
まだ血がでている。
「別に、痛いわけじゃね〜よ」
実は痛かったりするのだが。
「自業自得ですわっ」
ロザリアが、ツンとして言う。
全くもってその通り、とさっきまで反省していても、この言い方では謝れないゼフェル。
「何だとぉ」
「・・・・だって、いきなりっ。それに、私の方が先に言おうと思ってましたのに・・・・・・・・・・・・”綺麗”なんていうんですもの」
ロザリアが、顔を紅潮させて言った。
「あれは・・・」
言葉につまるゼフェル。
改めていわれると、恥しいことこの上ない。
「私の方が先に言おうと思ってましたのに」
そういって、ロザリアはじっとゼフェルをみつめた。
今日、何度もゼフェルをおかしくさせた視線で。
その、熱視線の先にある言葉。
「私、ゼフェル様のこと、かっこいいって思いますわっ」
ロザリアが力を込めてそう言った。
そして、恥しさに耐え切れなくなったのか、そのままごきげんよう、と告げ部屋を後にした。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
一人、取り残されたゼフェルは、あっけにとられていた。
何故、何が、突然”かっこいい”なのか?
「女ってわかんねぇ〜」
といいつつも、密やかに嬉しくなっているゼフェルであった。
次、どの面さげて会いに行きゃいいんだ?
そんな悩みさえ、遠くに飛んでいった。
ロザリアは、”思っていた”ではなくて、現在進行形で言ったのだから。
「ヘヘッ」
そんな笑い声が他には誰もいない部屋からもれた。
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