ゼフェルは上機嫌だった。
なぜかというと、いい天気だからだ。
これなら、今日ロザリアに見せると約束したP−03−S−W(通称メカチュピ)を飛ばすのに上等だ。
でもアイツメカ音痴なんだよなぁ、まぁ俺がついてりゃ大丈夫か、などと得意げに考える。
”すごいですわ”
なんて喜ぶロザリアを勝手に思うと、機嫌は上昇していく。
機嫌の良さついでに、早く家をでてしまったゼフェルは待ち合わせより大幅に早く森の湖についた。
その足が止まる。
「・・・・」
「・・・・」
声こそ聞き取れないものの、すでに先客がいる様子なのだ。
ここなら邪魔されずにP−03−S−W(通称メカチュピ)を飛ばせると思っていたゼフェルにとっては、不愉快な出来事だった。
でも、再び考え直し中に進む。
一応、恋人達の湖という別名がある場所なのだから少しは遠慮しろよって場面だが、ロザリアとここで約束した以上、今日のここの所有権は俺にある、と意味不明な理屈をもって。
しかし、その少年の決意はあっけなく崩れ落ちた。
森の湖にいたのは、彼のよく知る人物であったのだ。
パスハとサラ。
公認も公認。
誰もが認める恋人同士である。
「愛してる、愛してるわ。私の貴方」
「もちろん私もだよ、私のサラ。」
そして、熱い抱擁。
お互いを求め合うような、熱い熱い抱擁。
ほっておけば永遠に続きそうな熱い熱い熱い抱擁。
ゼフェルは、回れ右、でその場を去った。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
それは、思春期の少年にとっては刺激的な事で、そして・・・・。
「ゼフェル様!?」
前を見ずに歩いていたゼフェルは、少女に声をかけられてビクッとその声の主を見た。
「ロザリア、お前どうしてここに?」
動揺のため、そんな事を口走ってしまうゼフェル。
今、もっとも会いたくないタイミングで会ってしまったのだ。
「どうしてって、今日はゼフェル様とお約束したからですわ。お忘れですの?」
ゼフェルの心中などわからないロザリアがムッとした口調でそう言う。
清楚な白いワンピースに薄手のカーディガンを羽織った姿のロザリア。
いつもの青いドレスとはまた違った感じがする。
紅をさしたのか、少し赤い唇。
自分のために装ってくれた、などと思えば嬉しいことだが、今はそんな思考回路は生まれなかった。
自分の手にもっているP−03−S−W(通称メカチュピ)を見る。
先ほどのパスハとサラの事。
目の前のロザリアがいつもより大人っぽくて綺麗な事。
そして、今日のデートはP−03−S−W(通称メカチュピ←いいかげんしつこい)で遊ぶ事。
なんだか、ゼフェルは妙に落ち着かない気分になっていた。
「これがゼフェル様自慢のP−03−S−W。本当に私が飛ばしてもよろしいんですの?」
ロザリアが嬉しそうにそう言った。
場所はゼフェルの私邸の近くの空き地。
森の湖じゃP−03−S−W(通称メカチュピ)を水に落として壊しそうだ、とか理由をつけて場所を変更したのだ。
何となく、ロザリアにはあの2人を見せたくなかった。
「あぁ・・・」
あまり気乗りしなさそうにゼフェルが答える。
本当に、こんな事で楽しいんだろうか?
先ほどの2人にすっかりあてられたゼフェルは上の空である。
「ゼフェル様、本当によろしいんですの?」
そのゼフェルの返答に覇気が感じられないロザリアはぐっとゼフェルを覗き込む。
急にロザリアの顔が至近距離にきて慌てるゼフェル。
しかし、ロザリアはそのままじっと、ゼフェルを見つめ続ける。
何かを訴えたいような感じで、ずっとゼフェルを見つめる。
熱視線。
そんな名称が頭に浮かぶ。
ドキドキと心臓が自分のものじゃないかのように音をたてる。
自然に指がその髪に触れる。
紫の巻き毛。
シャンプーの匂いだろうか、なにやら上品そうな香りが鼻をくすぐる。
ロザリアの形のよい唇がもどかしげに動く。
その言葉を聞く前に、その口をふさがんとゼフェルはその顔を近づけた・・・・。
パラリ。
しかし、そんな2人の間に透明な雫が落ちる。
雨。
突然の雨。
さっきまでは全くのいい天気だったのが、突然の集中豪雨である。
ゼフェルにとってはどうでもいいことだったが、ロザリアはそれが合図であるかのように、パッと体を離した。
「・・・すっ、すごい雨ですわね」
ロザリアが火照った顔を隠すかのように後ろをむく。
タイミングを逸脱したゼフェルとしては、なんとなく気まづい。
が、しかし。
そんな事をいっていられないほどの雨。
台風でもくるんじゃないかというほどの雨。
すっかり、濡れ鼠もいいところである。
「とりあえず、私邸が一番近ぇな・・・、走るぞ」
ロザリアは着ていたカーディガンを脱いでP−03−S−W(通称メカチュピ←もういいって)を覆う。
そんな事よりお前が濡れないようにしろよ、といいたいゼフェルだが、文句を言う前にロザリアの手をひいて走った。
それくらい、雨足は激しかった。
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