5



「そろそろ寮に戻りますわ。ゼフェル様はいかがなさいますか?」

 もう泣いてはいないロザリアに対して、どのような態度をとればいいのかわからなかったが、なんとなく寮の前までついていった。
「本当にお見苦しいところをお見せしてしまいましたわ。申し訳ございません」
 深々と頭を下げるロザリアは、普段と同じで完璧な女王候補然としていた。
「ああ、そんなことは気にすんな」
 本当に気にしてほしくなかった。
 そして、口から出たのはこんな台詞だった。
「それよりよ、来週からもよー、またオレんとこ来いよな」
「……え?」
 直後に気がつく。

 ―――って…これじゃ、なんかオレが会いたがってるみてーじゃねーか。

「か、勘違いすんなよ!別に深い意味はねーんだぜ! ま、まーよ、お得意の澄ましたツラの皮、今度こそひっぺがしてやっからよ」
「ふふ…そうですわね。でも、そう簡単にはいきませんわよ?」
 いつもの自信に満ちあふれた顔だ。
 見るだけでイライラした顔だ。
 だけど今は、それが嬉しかった。

「…では、失礼いたします」

 オレ達は、何事もなかったフリをして別れた。
 オレは一度だけ振り返った。
 ロザリアは振り返らなかった。

 帰り道、オレは考えていた。
 アイツが泣いた時、オレは何も言えなかった。
 だから、おせーかもしれねーけど、今からでも何かしてやりてー。

「とりあえず、だ」

 ―――明日はあの野郎のところにでも行くか。

「オレが休みの日にわざわざあいつに会いにいくだなんてな、笑っちまうぜ」








 翌日の日の曜日は、快晴だった。
 重い足取りで、しかし決意めいたものを胸に秘めて、扉を開ける。

「ゼフェルか…?お前が日の曜日に訪ねてくるとはな。驚いたぞ」
 部屋の主である誇りを司る首座の守護聖は、そう言って部屋に入るように促した。
「ちょっと話があってよ。女王候補と、その育成のことについて言いてーことがあるんだ」
 光の守護聖は、僅かではあるが嬉しそうな表情を見せた。
「なんだ?せっかく訪ねてきたのだ。まあ入れ。言いたいことがあるならば、私にはいつでも聞く用意があるぞ」

 ―――こいつがオレにこんな顔するの、初めて見るぜ。

 大きく息を吸い込む。

 システムだかなんだか知らねえ。
 決まりなんてどーでもいい。
 そんなことに囚われすぎちまってるから、そしてそれを受け入れちまってるから、オレ達は当たり前のことがわからなくなってるんだ。

 オレの言葉がジュリアスに通じるかどうかわからねー。
 でもオレは、オレなりにやれることはやってみるぜ。



 おめーの為に。今だけは、だぜ?










back  next
novel  top