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「そろそろ寮に戻りますわ。ゼフェル様はいかがなさいますか?」
もう泣いてはいないロザリアに対して、どのような態度をとればいいのかわからなかったが、なんとなく寮の前までついていった。
「本当にお見苦しいところをお見せしてしまいましたわ。申し訳ございません」
深々と頭を下げるロザリアは、普段と同じで完璧な女王候補然としていた。
「ああ、そんなことは気にすんな」
本当に気にしてほしくなかった。
そして、口から出たのはこんな台詞だった。
「それよりよ、来週からもよー、またオレんとこ来いよな」
「……え?」
直後に気がつく。
―――って…これじゃ、なんかオレが会いたがってるみてーじゃねーか。
「か、勘違いすんなよ!別に深い意味はねーんだぜ!
ま、まーよ、お得意の澄ましたツラの皮、今度こそひっぺがしてやっからよ」
「ふふ…そうですわね。でも、そう簡単にはいきませんわよ?」
いつもの自信に満ちあふれた顔だ。
見るだけでイライラした顔だ。
だけど今は、それが嬉しかった。
「…では、失礼いたします」
オレ達は、何事もなかったフリをして別れた。
オレは一度だけ振り返った。
ロザリアは振り返らなかった。
帰り道、オレは考えていた。
アイツが泣いた時、オレは何も言えなかった。
だから、おせーかもしれねーけど、今からでも何かしてやりてー。
「とりあえず、だ」
―――明日はあの野郎のところにでも行くか。
「オレが休みの日にわざわざあいつに会いにいくだなんてな、笑っちまうぜ」
翌日の日の曜日は、快晴だった。
重い足取りで、しかし決意めいたものを胸に秘めて、扉を開ける。
「ゼフェルか…?お前が日の曜日に訪ねてくるとはな。驚いたぞ」
部屋の主である誇りを司る首座の守護聖は、そう言って部屋に入るように促した。
「ちょっと話があってよ。女王候補と、その育成のことについて言いてーことがあるんだ」
光の守護聖は、僅かではあるが嬉しそうな表情を見せた。
「なんだ?せっかく訪ねてきたのだ。まあ入れ。言いたいことがあるならば、私にはいつでも聞く用意があるぞ」
―――こいつがオレにこんな顔するの、初めて見るぜ。
大きく息を吸い込む。
システムだかなんだか知らねえ。
決まりなんてどーでもいい。
そんなことに囚われすぎちまってるから、そしてそれを受け入れちまってるから、オレ達は当たり前のことがわからなくなってるんだ。
オレの言葉がジュリアスに通じるかどうかわからねー。
でもオレは、オレなりにやれることはやってみるぜ。
おめーの為に。今だけは、だぜ?
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