「わたくし、もうゼフェル様の恋人でいる自信がございませんの」
 青い瞳を持つ少女は、そう呟いた。
「そっか…しゃーねーよな」

 ああ、胸が痛い。

 初めて思いを告げた時のこと。
 初めて喧嘩をした時のこと。
 初めてキスをした時のこと。
 初めて二人で夜を過ごした時のこと。

 どうしてだろう?楽しかったことばかりが頭の中に溢れてくる。

 彼女はもう、オレを愛してはいないのに。
 今、去っていこうとする彼女を見つめるオレは、もうそのころのオレとは違っているのに。

「じゃあ、な。おめーのこと、好きだったぜ。…ありがとな」

 ロザリアは笑う。

「どうしてそんなにお優しいのですか?今まで、意地悪ばっかりおっしゃっていたのに。なんだかずるいですわ」

 暫しの沈黙の後、口を開いたのはロザリアだった。

「さようなら、ゼフェル様」
 そう言って彼女は駆けだした。
 きっと泣いているのだろう。

「さよなら、オレだけのロザリア」
 あまりにも自分らしくない台詞。

 けれど、口にせずにはいられなかった。










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