「今夜は帰さねーぜ」
陳腐過ぎる台詞を言ってしまった自分を恥じる余裕はなかった。
それどころではなかったのだ。
今、腕の中にいる恋人を大切にしたいと思っていた。
正直に言えば、自分のおそらく稚拙であろう技術…と言えばいいのかわからないが、とにかくそれを見せるのが怖かった。
それでも、もう我慢の限界だ。
「ゼフェル、それは、もしかして、ですけれど」
その柔らかさをよく知っている唇が開いたが、自分の唇で閉じさせた。
か細い手首を握り、彼女の体に傷が付かないようにゆっくりと押し倒す。
「んっ…!?」
中途半端に終わった質問が頭に浮かんだ時点で予想はしているはずだろうに、未だ状況を理解していない様子のロザリアに、ゼフェルは戸惑った。
―箱入りのお嬢だもんな。
離れたがらない体を無理やり引き離して、一息つく。
「わりー。おめーの気持ち確かめねーで…よくねーよな、こんなの。悪かった!」
ロザリアの顔を見るのが怖かったから、頭を下げて、高速で横を向いた。
―なんかオレすっげーやりたがってるみてーじゃねーか!?
つーかそりゃやりてーけどよー…それより、冷静になってみたらすげー恥ずかしーこと言っちまったしやっちまったじゃねーか!
どうすりゃいーんだ。このままうやむやにして帰るわけにもいかねーし、釈明ってやつが必要だろーな。
って釈明ってどーやってすりゃいーんだ!?
羞恥と後悔でぐちゃぐちゃになりながら横目でロザリアを覗き見たが、乱れた髪が瞳を隠しているため表情がわからない。
―怒ってるよな…。いや、それ通り越して呆れてるかもしんねー。
「なあ」
声をかけてみたが、返事はない。
ともすれば絶叫して逃げ出したくなる心を押さえつけて、弁解しようと試みる。
「ちげーんだよ…いや、ちがわねーけどよ。なんかよ、おめーにもっと触りたくなっちまってよ。なんつーかよ、おめーがあんまりいー匂いしてるしよ、つい、いや、つい、じゃねーんだぜ!」
「ゼフェル。違いますわ」
突然ロザリアが声を出したので、緊張が走った。
「こんなこと聞きたくねーよな…」
「いえ、わたくしも、同じですわ」
「へ?」
「…わたくしも、ゼフェルに触ってみたい、のです」
「オレに触りたい?」
「わたくしも、最初はゼフェルとって、決めていますの。…できれば、最初だけではなくて、この先ずっと、って…」
―マジかよ。
「いい、ん…だ、よな?」
「……ええ」
ゼフェルの頭の中で、何かがはじけた。
ロザリアを抱きしめてキスをする。舌を割り込ませてロザリアの舌を舐めまわす。
「んっ…」
ロザリアが漏らす声と、キスによって発する音が、気持ちをどんどん昂ぶらせていく。
青い布に包まれた乳房に手をやると、我慢できなくなったようにロザリアは甘い吐息を漏らした。
「やわらけー…」
呟いて、もう片方の手をロザリアの背中に廻してファスナーを下ろすと、ロザリアは少し震えたが何も言わなかった。
華奢な肩。そこから伸びる綺麗な腕。絹で作られていると思われるブラジャーをつけてはいるが、やわらかさと弾力を隠すどころか、逆に強調しているようにさえ見える。
唇を首筋に下ろして舐め上げた後、鎖骨に移る。下着の上に手を這い回らせる。
最初は優しく触れていたが、それだけでは収まらなくなり強く揉みしだく。布越しに先端が硬くなっているのがわかる。
「なあ、感じてんのか?」
ビクリと体を動かして、ロザリアは首を振る。
その姿は、ゼフェルにそれまでとは異なる種類の興奮を与えた。
焦らすように間隔をおきながら指で突付いてやると、またロザリアは短い声をあげる。
「感じてんだろ?素直に言えよ」
ゼフェルの手を押しやりながら、ロザリアはもう一度首を横に振った。
「そんなことおっしゃるなら…もう…」
「バカ、ここで止められるわけねーじゃねーか。つーかよ、オレにこんなこと言わせてんのは、おめーなんだぜ」
責任取れよな、とホックを外す。
「きゃっ」
ロザリアが驚いている隙に肩紐を下にずらした。乳房が揺れて、露になる。
―すげー…。
思わず見蕩れていると、ロザリアが両手で胸を隠した。
「そっ、そんなに見ないでくださいませ!」
「何言ってんだよ。こんな…きれーなのによ、見ねーと損すんじゃねーかよ」
「損得の問題ではありませんわ!わたくしの気持ちも考えてください!…恥ずかしくて…もう…」
―その態度だよ…それがいけねーんだよ。逆効果ってやつ、だぜ。
「でも、教えてやらねー」
「…は?」
そのままロザリアの上に覆いかぶさると、片手では包みきれないほど大きく、ツンと上を向いている乳房にくちづけた。
ピンク色の突起を口に含んで舌先で転がしながら、もう片方の乳房を愛撫すると、ロザリアは大きく仰け反ったが、それでも声をあげようとしない。
―さっきオレがあんなこと言ったからか?
「バカ、よけーにいじめたくなっちまうってんだよ」
ゆっくりと手を下腹部に伸ばすと、ワンピースの腰の部分がひっかかった。
「腰、上げろよ」
「……え?」
「服、脱がせらんねーだろ?」
「はっ!?えっ…でっでも…そんな…」
「最初は、オレとって、思ってくれてんだろ?」
「ええ…でもせめて、電気を消していただけない…かしら」
「いやだ」
「どうしてですの?」
「だってオレ、見てーもん」
「そんな、わがままですわ!」
「お?オレがわがままだってこと、知らなかったのかよ?」
ニヤリと笑って続ける。
「服着たままってのも、悪くねーかもしんねーな」
「!」
渋々腰を僅かに浮かせてくれたので、ようやく脱がせることができた。
口ではああ言ったが、やっぱり何も身に着けていないロザリアがいい。
脱がせ終わって、改めてロザリアを眺める。
ストッキングと下着だけで横たわっている姿は刺激が強すぎて、膨らんでいるものが言葉通り爆発しそうな気さえする。
思わず不安になって確認してみたが、大丈夫なようだ。
我ながらおかしいとは思うが、心底安心した。
―でも、よ。
苦笑して、ゼフェルはリモコンで部屋の照明を落とした。
「ゼフェル…?」
「おめーが本気で嫌がってんだったら、しょーがねーよな」
小声で言うと、ロザリアは初めて安心したような笑顔を見せた。
―『愛しい』って、今のこの気持ちのことを言うんだろーな。
できる限り優しくキスをする。
「でもよ、これからもっと、恥ずかしいことするんだぜ」
ストッキングに手をかけて脱がせながら話しかけると、パっと手で顔を隠した。
補佐官としてのロザリアからは想像できない愛らしい仕草と、綺麗にくびれたウエストの艶かしさが対照的で、ゼフェルは思わず生唾を飲み込んだ。
稚拙な技術がどうの、と腰が引けていたのが嘘のようだ。そんなことはすっかり頭から消えていた。
橙色のかすかな光に照らされたロザリアにキスをしながら、敏感な部分を探すべく指を動かした瞬間。
「ああっ…!」
裏返った声をロザリアは発した。
―ここ、なのか?
目を見開いて驚いたような表情をしているロザリアは、ゼフェルの視線に気づくと口を手で押さえた。両脚を閉じようと力が込められたが、膝を掴んで無理やり広げ、自分の両脚で固定した。抵抗を感じたが、構わなかった。
先ほど反応があった場所を下から上へと撫でると突起があった。そこを強弱をつけて執拗に弄る。
不規則に発せられるロザリアの声が、思考回路を一つずつ塞いでいく。
最後の下着を取った時に感じた抵抗はごく微弱なものだったが、ロザリアの足の間に顔を近づけると、思い出したように全身を強張らせた。
「ゼフェル…何を?」
問いかけを無視して、小さな突起を舐めた。
「止めて…」
あまりにも弱々しい声に不安になってロザリアを見上げたが、顔を背けている。
「なんで止めて欲しいんだ?」
「恥ずかしいからに決まっているでしょう」
ゼフェルは頷いて笑った。
「だろーな。でもよ、そんなこと言わねーで、オレに全部見せてくれよ。どこ触ったらどんな風になんのか、知りてーんだ。やっぱよ、喜んでほしーから」
正直に言ったのが良かったのか、聞こえないくらい小さな声ではあったが「わかりましたわ」と言ってくれた。
ぴちゃぴちゃと響く音に合わせるように、ロザリアの腰が小さく浮き沈みし始めた。扇情的なその姿にたまらなくなったゼフェルは、ゆっくりと中指を挿入した。
「ああっ!」
心臓が止まりそうになるほど、その声は大きかった。
「痛いか?」
「少しだけ。でも…」
「でも、なんだ?」
手を瞼の上にやって、ロザリアは言った。
「あの、多分、気持ちいい、ですわ」
ダメだ。まだダメだ。もっとゆっくり進めなくちゃいけねー。なのに、そんな声でそんなこと言うなんて…もうやべー。おかしくなりそーだ。マジで破裂しそーになっちまってる。
「なら、いーんだ」
ダメだダメだ我慢しろって。
「ゼフェル…」
―今は指を動かすことに集中するんだ。痛くさせねーよーに、ゆっくりだ。
しばらく続けていると、指がぬるぬるし始めた。
口をつけ、わざと大きな音を立ててそれを吸う。
指を濡らす液体が潤滑油の役割を果たしているようで、滑らかに動かせるようになった。
「もっとしてほしいか?」
言いながら指をもう一本差し込むと、ロザリアは仰け反った。
乳房が大きく揺れたのを見た瞬間、焦らしたいという欲望は跡形もなく消えた。
「わりー…もう無理」
慌しく指を抜き、雫をしたたらせているそこに自身をあてがう。
覚悟を決めたように目が閉じられたのを見て、奥へと進んだ。
ロザリアが息を呑んだ音が、遠くで聞こえた気がした。
「くっ…」
想像していたよりもあっさりと飲み込まれたそれが、ロザリアの体内で暴れまわった。
動くたびに、快感が走る。
「うぅっ…あ…」
小さく声を上げたロザリアに、腕を強く掴まれた。
きつく両目を閉じ、歯を食いしばっているロザリアが心配になったが、上手く声が出せない。
漏れるのは、荒い吐息ばかりだ。
態勢を立て直そうと動きを止め、なんとか息をつく。
「ロザリア…大丈夫か?」
痛みを堪えた顔で、ロザリアは首を左右に振った。
「そんなに痛いか?」
問い直したが、ロザリアはまた左右に大きく首を振る。
「おい、マジで大丈夫かよ」
「続けて…」
「あ?」
「とにかく、続けて」
薄く涙を浮かべながら言うロザリアを見て、ゼフェルは自棄になったように吐き捨てた。
「もうしらねーからな」
ぐいと腰を動かすと、ロザリアは高い声を上げた。
「あっ!」
眉間の皺は消え、ロザリアの身体から力が抜けて行く。
ゼフェルの襟首に手が伸ばされ、まさぐられる。
「これが…邪魔ですわ」
はだけた胸元を撫でられ、思わず声が出た。
決まり悪さを隠すように、片手で上半身の服を脱ぎ、強く突く。
高く短かった声は、後をひくようなものに変わっている。
ロザリアの中で締め付けられているそれが、ビクビクと痙攣しているのがわかる。
擦れ合うたびに聞こえる音に追い立てられ、ゼフェルは無我夢中でロザリアを抱きしめた。
ピッタリと重なると、乳房の感触とロザリアの呼吸がじかに伝わる。
耳元で、鼻にかかったような喘ぎ声が長く伸びた。
動きを止めずに、必死で乳房の先端を啄ばむ。
強く吸って、離す。
屹立した乳首が唾液でぬらぬらと光っている。
恥じらいを捨て、恍惚とした表情を浮かべるロザリアの姿は、ゼフェルの征服欲を大いに満たした。
「こっ…こんなおめー、誰も想像できねーだろーな」
「…もうっ」
「オレにだけ…だぜ?」
応えるように何度も首を縦に動かした後、きゅう、と抱きついた。
欲情の中に、淡い喜びが溶け込んでいく。
今や、眉間に皺を寄せているのはゼフェルの方だった。
瞼を閉じて、呻くようにロザリアの名を呼んだ。
ロザリアは、ゼフェルの首に腕を回して身を起こし、唇を這わせて甘く噛んだ。
そりゃ反則だろ、と思った瞬間、ゼフェルは放出した。
抱きついたまま動かなくなったオレの背中を、ロザリアの手が優しく撫でた。
「…わ、わりー…」
切れ切れに吐き出して、続けた。
「なんか…オレだけ先に」
「…構いませんわ」
首を動かしてロザリアを見ると、恥ずかしそうに視線を外された。
「でもよー」
手のひらで、口が塞がれた。
「ムードがなさ過ぎますわよ!…それに、あの、まだ」
「なんだよ」
「それを」
「それ?」
痺れを切らしたらしく「もうっ!」と右肩を力いっぱい押された。
「あ、そーいやまだ入ったまま」
「わ、わざわざ言わなくてもいいでしょう!?早く!」
「もーちょっと、いーだろ?余韻っつーの、味わせろよ」
ロザリアの顔を覗き込むと、彼女は口を閉じた。
「すっげーかわいかったぜ?」
つり上がっていた目じりが、一瞬で下がった。
「そ、そういうことも言わないで下さる?」
落ち着きのない反応が楽しくて、ロザリアの頬を触って言った。
「顔、熱いな。おめー今真っ赤だろ」
「そんなことばっかりおっしゃるなら、ゼフェルが言った言葉を言いますわよ」
「…止めろ。いや、止めるから止めてくれ」
慌ててそう言うと、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
悔しいが、自業自得だ。
「でも、これだけ言わせて下さいます?」
目を細めたロザリアは、手を口元に寄せ、小声で言った。
「ゼフェルだって、とっても素敵でしたわよ」
ゼフェルは思わず手を自分の頬にあてた。
その温度は、ロザリアの頬と同じくらい高かった。
オレの顔も赤いんだろーな。
苦笑して、顔の熱さがばれないように、短くキスをした。
end