幸せな結末 君と恋人同士になれた時はとても嬉しかったけど、すぐに不安でいっぱいになってしまったんだ。 体を動かせば悩みも消えるって思ったけど、なんだかそうする気にもなれなくて途方にくれてしまった。 そう言ったらオスカー様にからかわれてしまったから、誰にも言わないでおこうって思った。 俺は一人でいろんなことを考えるようになった。 「最近、運動している姿を見かけませんが、どうしたんですかー?」 何気なくルヴァ様に聞かれた。 「部屋でいろいろ考えごとをしてるんです。自分の考えを整理したりってあまりしたことなかったんですけど」 ルヴァ様は嬉しそうに言った。 「そうですかーそれは良いことですねー」 君は、俺の腕の中にいる。 熱を帯びた瞳で、俺を見つめている。 「わたくしは、ランディ様を愛していますわ」 簡単に”愛”なんて言葉を使う君に少し呆れながら、それでもやっぱり嬉しくてぎゅっと抱きしめる。 「俺が欲しい言葉がなんでわかるんだい?」 彼女を見つめ返したら、頬を赤くしてはにかんだ。 夜空には月が綺麗に輝いて、俺たちを照らしている。 幻想的な雰囲気の中で、ロザリアはうっとりと目を閉じて囁く。 「…ずっと一緒にいたいと願ってしまいますわ」 「願っててほしいな」 「本当に…わたくし、ランディ様と出会えて良かった…」 「どうしてだい?」 わかってて聞いてらっしゃるんじゃなくて?と軽く睨まれてしまったけど、そ知らぬ顔をする。 「とても、とても、好きなのですもの。ああ、どう申し上げればこの気持ちをわかっていただけるのかしら…わたくしの心の中をそのままお見せできたらいいのに。言葉にするのは難しいですわね…」 口ごもったロザリアの髪を撫でると、満足そうにため息を漏らした。 「一緒にいるよ。いつまでも」 頭を俺の胸に預けて、ロザリアは呟く。 「死が二人を別つまで…?」 「ああ、そうだよ」 君が頬を染めながら初恋だと教えてくれた時、俺が感じた不安は『本当の恋じゃないんじゃないか』ってものだった。 俺にも本当の恋っていうのがどんなものか説明はできないけど、それとは違うものなんじゃないだろうかって。 だけど、今は嬉しく思ってる。 利用できるものは、全部利用することに決めたから。 「俺は貴族じゃないよ」 「突然何をおっしゃるの?」 面食らったように、問われる。 「なんとなく言いたかったんだ。ごめん、わけのわからないことを言っちゃって」 少し考えてから、彼女は答えを返してくれた。 「ランディ様は、守護聖様です」 「いつか、守護聖じゃなくなる」 「わたくしだって、いつか女王ではなくなりますわ」 まるで、もう女王であるかのような口ぶり。 君はまだ、候補に過ぎないのに。 高飛車に見えるのに情に弱くて、冷静だけど優しくて、理屈っぽいくせに純情で、とても綺麗な俺の恋人。 君が試験に負けたとしても、俺は構わない。 どれだけ君が泣いても、俺に八つ当たりしても、君の傍から離れない。 悲しむ君を見るのは辛いけど、きっとすぐに君は立ち直ってくれるって信じてる。 女王になれなかったって君の価値は少しも損なわれないんだ。 俺が、そのことを君に教えてあげるから。 だから、負けてもいいんだよ。 負ければ、いいんだ。 最高の出会い方をしたと思う。 自分では気づいていないと思うけど、俺が守護聖だから君は好きになってくれたんだからね。 下界で出会っていたら、きっと俺のことなんて相手にしてくれなかっただろ? 守護聖と女王候補でなければ、成り立たない恋。 何度も考えては、少し悲しい気持ちになっていた俺はもういない。 サクリアが尽きて、只人になってしまった俺から君が離れてしまうかも知れないって怖がっていた俺も、いない。 君の気持ちがどう変わろうと関係ないって思うようになったから。 「いつか、俺と結婚してくれるかい?」 「…喜んで」 「永遠に、俺を愛してくれる?」 ロザリアは頷いたけど、まだ開放しない。 「俺、信じちゃうよ?」 「嘘じゃありませんわ。ランディ様をずっと愛し続けるに違いありませんもの」 「陛下に誓える?」 「ええ、もちろんですわ」 心配性ですこと、とくすくす笑う。 「笑わないでくれよ。恥ずかしいじゃないか」 明るく言いながら、俺は考えている。 いつか来る日のために、言質をたくさん取っておかなければならない。 「わたくし、幸せですわ」 夢を見ているようなロザリアの瞳。 初めて恋を知って、世界に一つしかない宝石を見つけたような気分になっているんだろうね。 確かに綺麗だけど、そこら中にたくさん転がってる安物の石なのに。 心配した通りだったってわかるまで、大して時間はかからなかった。 君はただ、初恋に酔っているだけなんだって、君が気づく前に、俺が気づいてしまったんだ。 君がくれる愛の言葉は、あっさりと別れを選んだ恋人達が、過去に何度も口にした言葉と同じ重みしかないんだって…俺にとってはとても悲しいことだけど、わかった。 勿論、俺にはそれを教えてあげるつもりなんてこれっぽっちもないよ。 それでも誰かが教えなくったってほとんどの人は自分で気づいてしまうみたいだけど。 『あの時は子どもだった』 『運命の人だって、思ってた時もあった』 恥ずかしそうに、でも少しだけ嬉しそうに大人達がよく言ってるから。 ただ君が気づく頃には、もう逃げられなくなっているはずだよ。 俺は、君を手放さない。 今、誓ったよね? 俺たちはもう、ずっと一緒なんだよ。 どう足掻いたって、君はずっと俺と一緒なんだ。 君を自由にしてあげることはできないけれど、俺にできることならなんだってするよ。 俺こそが、君を愛してるんだ。 だから、君の気持ちがどう変わろうと関係ないって思うようになった今でも、やっぱり君には笑っててほしいって願ってる。 君が自分の幼さに気づいて、後悔する顔なんて本当は見たくないんだ。 それこそ死が二人を別つ時に、今見せてくれたみたいな笑顔で『幸せだった』って言ってほしいから、俺はまた考えたんだ。 どうしたらいいんだろうって、一生懸命考えた。 答えは出たよ。 いつまでも、それに気づかせなければいいんだよな。 安物の石を宝石だって信じたままで、生涯を閉じてもらうことにしたんだ。 思い込めば、嘘も真実に変わるはずだから。 「これから先の幸せも、俺が作ってあげるからね」 「なんだか、おかしな言い方をなさるのね」 「嫌かい?」 いいえ、とロザリアは無邪気な笑顔を見せる。 「嬉しいですわ」 俺も笑顔を見せる。 「そう言ってくれて、俺も嬉しいよ」 俺の幸せも、俺が作る。
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